電脳化が招く世界は
前回に引き続いて。
アニメ「攻殻機動隊」は、ご覧になったでしょうか。
このアニメの舞台は2030年の日本。電脳化と称して、人の脳がインターネットに直接接続されています。言葉や映像などが伝達されるのはあたりまえ。格闘技や射撃の技能までがプログラムとして販売されています。
他人の脳にハッキングを仕掛け、見てもいないものを見せたり、記憶を操作したりする駆け引きが、このアニメの面白さでした。
では、本当に脳が直接ネットで連結されたら、どうなるでしょうか。
まず「浅い」接続。テキストデータや映像などをやり取りするだけならば、パソコンを使っている現在の生活と、さほど変わりはないでしょう。表示場所がディスプレイではなく、頭の中になるだけです。
ただ、学習の機会は飛躍的に増えますね。テレビを見ていると、サブプライムローンだとか、シーア派だとかいう単語が飛び交っています。私たちはちょっとした興味を抱きますが、たいていの場合はわざわざ調べません。脳が直接ネット接続していたとしたら瞬時に、しかも自動的に調べられるようになります。知識のある人は増えるかもしれません。
ただ、情報発信のハードルが低くなるほどに、価値のない情報が増える、という現状があります(現在、インターネットでやり取りされるメールの85%は迷惑メールだそうです)。人間の脳が直接インターネットに接続されたら、
「はらへった」
「ねむい」
といった、どうでもいい情報がネットにあふれて、使い物にならなくなりますから、それを選別する方法を考える必要はありますが。
では、もっと深いところまで接続し、他人の記憶や視界まで共有できたとしたら、どうなるでしょうか。
いま私が「フェルマーの最終定理の証明」を読んだとしましょう。わけのわからない言葉や数式の羅列にしか見えないと思います。
ところが、この定理を理解した人の脳から必要な情報を引用できるとしたら、話は違ってきます。数学の基礎知識から定理の証明にいたる各段階、理解にいたる筋道の記憶が、丸ごと自分のものになるのです。私は即座にフェルマーの最終定理を理解するでしょう。のみならず、もとの人の影響で「面白い!」と感じるかもしれません。
そして、そこが問題でもあります。
「理解」は、新しい知識をすでに持っている知識と関連付けること、といわれています。したがって、ひとつの情報を理解するために、イモヅル式に多くの情報がくっついてきてしまいます。
例えば「鉛筆」について語るとき、それは「黒鉛と粘土を混合した芯を、木材で挟んだ筆記用具」だけを語っているのではありません。社会人は、鉛筆という単語にノスタルジックな響きを付け加えているかもしれません。鉛筆の貸し借りから恋が芽生えた、などというベタな経験を持つ人なら、恋人との様々な思い出が付帯していることでしょう。
その人々から「鉛筆」という単語を背景付きで受け取れば、その思い出や感情までついてきます。「深い」情報共有では、他人の人生経験や価値観まで取り込まざるを得ないのです。
例えば、アメリカ経済について調べていただけなのに、気がつくとアメフトを見たくなっているかもしれません。古典芸能を調べていたのに、蕎麦好きになっていたりするかもしれません。 いつの間にか自然に価値観が変化してゆきます。
この「汚染」は、意識できませんし、事前の選別も不可能です。多くの人の脳が静かに混ぜ合わされるでしょう。
さらにもっと深く接続されたら。
取り込んだ他人の記憶と自分の記憶の区別がつかなくなると、
「昔の恋人とすれちがった。でも、自分の恋人だったかどうかわからない」
などという、状況が出現するかもしれません。
それとも、過去いくつかのSFで書かれたような、自他の区別のない集合意識の生き物になり、平和な社会が到来するのか…。この手の話は、興味がつきません。
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コメント
前回と今回の記事楽しく読ませて頂きました。
相変わらず思考がマニアックかつロジカルですね^^
汚染された記憶、おもしろいですね。
私の場合『鉛筆』では端っこをかじった時の
あの、えもいわれぬ味と小学校の時に好きな女子にプレゼントした時の
甘酸っぱい思いがよみがえってきます(笑)
投稿: 日本酒好き南区民 | 2008年10月29日 (水) 09時53分
>小学校の時に好きな女子にプレゼントした時の
やりますねえ。私はそんな思い出はないなあ。それこそ本当にかじったときの味だけ。鉛筆の木って、柔らかいから妙に歯ざわりが良かったりしましたねえ。安い鉛筆は材料にムラがあってガリガリ音がしたり。
もう少し良い思い出が欲しいなあ。
投稿: 八起堂 | 2008年11月 5日 (水) 22時34分
知らぬ間にレスバックが^^;
失礼しました。
TAMのとこにもコメントしよーっと。
投稿: 日本酒好き南区民 | 2008年12月22日 (月) 17時13分